ASIAIR Plusのように、技適取得前に生産開始・流通した製品は、免許不要で利用できるか?

ASIAIRのように、天体観測にもWi-Fiでの接続が行えるデバイスが増えてきました。
国内で無線LAN機器を総務大臣の免許なしに利用するためには、電波法第四条の規定に基づく一定の条件があります。

本記事は、現在の日本の法規制の是非などについて書いているものではありません。
2022年4月現在の法規制をそのまま解説するものです。

ASIAIR Plusについては、メーカーが2022/6/15付でASIAIR Plusとしての認証を取得しており、概ね2022/7月以降に国内代理店から出荷された製品については、製品に適合表示(技適シール)が付されているため、国内での使用に問題ありません。
本ページにて取り上げているものは、2021年9月の販売開始~2022年6月頃までに出荷されたASIAIR Plusが該当します。
また、適合表示が2022年7月以降メーカーから出荷される全てに付されているのか、日本向けに出荷され国内代理店から販売されたものに限られて付されているのかは現時点で定かではありません。
ASIAIR Plusが技適取得までのあれこれは別ページにまとめています。


電波法第四条の規定にある「適合表示無線設備」とは、所謂「技適」を受けたことを適切に示す「適合表示」を付した無線設備をいいます。
技適(工事設計認証)の取得には少なからずコストが生ずるため、特に天体観測用の機器メーカーでは既に技適を取得して流通しているWi-Fiモジュールを部品として組み込み、組み込み機器として製造することで、天体観測用の機器として改めて技適を取得する必要がないようにしている手法がよく採用されています。

<例>

  • ASIAIR Pro : Raspberry Pi 4 Model B
  • AZ-GTi : ESP-WROOM-02
  • Vixen 天体望遠鏡 ワイヤレスユニット : ESP-WROOM-02D

このような方式で生産される組込機器については、内蔵するWi-Fiモジュールの技適取得前に生産開始・流通するものがあり、電波法第四条の規定に基づく総務大臣の免許なしに利用するための条件を満たしていないものが一部の代理店や個人輸入などによって流通することがあります。
天体観測用の機器でよく知られている例では、ASIAIR Proの後継製品であるASIAIR Plus(Raspberry Pi Compute Module 4を内蔵)の状況があてはまります(2022年4月現在)。

例を挙げて説明します。

1. 海外の製造業者 A(Raspberry Pi LTD)は工事設計認証の取得前に生産した無線設備(無線 LAN モジュール B:Raspberry Pi Compute Module 4)を、海外の組込機器製造業者 C (ZWO)に出荷した。
無線LANモジュールBは工事設計認証取得前であるため、工事設計認証の適合表示は付されていない。
2. 組込機器製造業者 C は無線 LAN モジュール B を組み込んだ製品 D (ASIAIR Plus)を生産した。
3. 組込機器製造業者 C は製品 D を日本国内の販売代理店 E(ASIAIR Plusを取り扱う国内代理店) に出荷した。
4. 上記2から3の期間中に、製造業者 A は無線 LAN モジュール B の工事設計について工事設計認証を登録証明機関から受け、工事設計合致義務を履行したうえで、認証取扱業者として工事設計認証の適合表示を適切な方法で付した無線設備を新たに無線 LAN モジュール F (Raspberry Pi Compute Module 4 技適対応版)として生産し、出荷を開始した。なお、無線 LAN モジュール B と無線 LAN モジュール F の型式又は名称は同一である。

上記の場合、無線LANモジュールBを組み込んだ製品D、すなわち技適取得前のRaspberry Pi Compute Module 4を内蔵したASIAIR Plusは、適合表示無線設備として総務大臣の免許を受けることなく利用できるでしょうか?

電波法に書かれていることではありますが、総務省宛に「法令適合事前確認」の手続を利用して照会してみました。
下記が、その照会文および総務省からの総務大臣名の正式な回答文です。

総務省 法令適用事前確認手続 > 照会及び回答 https://www.soumu.go.jp/menu_sinsei/hourei_tekiyou/shoukai.html 
※回答日:令和4年4月6日のもの

回答全文については上記リンクの通りですが、結論を引用すると下記の通りです。

照会のあった無線局で使用しようとする無線設備については、電波法(昭和25年法律第131号)に定める適合表示無線設備ではなく、当該無線設備を使用した無線局の開設に当たっては、同法第4条各号に掲げる無線局に該当しないことから、同条の規定に基づき、総務大臣の免許を受ける必要がある

ASIAIR Plusは、Raspberry Pi Compute Module 4というWi-Fiモジュールを搭載した製品を組み込んで製造されている組み込み機器ですが、このRaspberry Pi Compute Module 4については、2022年3月23日に工事設計認証番号 020-210202 として工事設計認証を取得しました。
但し、まだ現在適合表示が付されているRaspberry Pi Compute Module 4については出荷されていません。
ASIAIR Plusについては、適合表示が付されたRaspberry Pi Compute Module 4を内蔵している状態になってはじめて、総務大臣の免許が不要で運用できる無線局としての条件を満たします。

(※Wi-Fiモジュールを内蔵した組込製品においては、その制御ソフトウェアが工事設計認証を受けた際の要件をきちんと満たしていることをメーカーが確認・保証していることが前提です。)


 以下、上記についての説明です。

工事設計認証を取得する前に販売されている製品について、後日メーカーが工事設計認証を取得しても、認証取得前の製品が遡って工事設計認証を取得したことにはなりません。

「技適が必要な理由」⇒「免許不要な無線局の条件」⇒「正しい適合表示無線設備における「表示」」⇒「工事設計認証」⇒「実際の事例」の順に説明します。

なぜ、国内で電波を発する機器の利用には「技適」が必要なのでしょうか。

免許や特例申請なしに無線局を開設したい場合、「適合表示無線設備」を使用することが条件となっているから。

天体観測・撮影の用途に限らず、一般的に家庭等で無線LAN機器を利用する場合、免許の取得や特段の利用申請なしに利用することが認められています。
これは、電波法の下記の規定によります。

電波法
第二章 無線局の免許等
第一節 無線局の免許
(無線局の開設)
第四条 無線局を開設しようとする者は、総務大臣の免許を受けなければならない。 ただし、次の各号に掲げる無線局については、この限りでない。
 発射する電波が著しく微弱な無線局で総務省令で定めるもの
 二十六・九メガヘルツから二十七・二メガヘルツまでの周波数の電波を使用し、かつ、空中線電力が〇・五ワット以下である無線局のうち総務省令で定めるものであつて、第三十八条の七第一項(第三十八条の三十一第四項において準用する場合を含む。)、第三十八条の二十六(第三十八条の三十一第六項において準用する場合を含む。)若しくは第三十八条の三十五又は第三十八条の四十四第三項の規定により表示が付されている無線設備(第三十八条の二十三第一項(第三十八条の二十九、第三十八条の三十一第四項及び第六項並びに第三十八条の三十八において準用する場合を含む。)の規定により表示が付されていないものとみなされたものを除く。以下「適合表示無線設備」という。)のみを使用するもの
 空中線電力が一ワット以下である無線局のうち総務省令で定めるものであつて、第四条の三の規定により指定された呼出符号又は呼出名称を自動的に送信し、又は受信する機能その他総務省令で定める機能を有することにより他の無線局にその運用を阻害するような混信その他の妨害を与えないように運用することができるもので、かつ、適合表示無線設備のみを使用するもの
 第二十七条の十八第一項の登録を受けて開設する無線局(以下「登録局」という。)

つまり、電波法の規定では無線局の開設には原則的に総務大臣の免許が求められています。ただし、法の条件を満たすものは「免許不要」で利用してもいいですよ、ということになっています。
電波法第四条において、二は所謂CB無線についての規定ですが、ここで適合表示無線設備について定められています。適合表示無線設備、つまり法の規定により表示が付されている無線設備であることが求められます。
無線LAN機器は、電波法第四条の三の「空中線電力が一ワット以下である無線局のうち総務省令で定めるもの」に該当します。かつ、はOR(または)ではなくANDなので、こちらも表示が付されている無線設備であること、つまり適合表示無線設備であることが求められます。
法に規定のある方法で表示が付されていない機器については、仮に工事設計認証(後述)を取得していたとしても、適合表示無線設備でなく、免許不要の無線局の要件を満たしません。
法に規定がないものが付した表示には法的効力はありませんし、下記の通り禁止されています。

電波法第三十八条の七 登録証明機関は、その登録に係る技術基準適合証明をしたときは、総務省令で定めるところにより、その特定無線設備に技術基準適合証明をした旨の表示を付さなければならない。
 適合表示無線設備を組み込んだ製品を取り扱うことを業とする者は、総務省令で定めるところにより、製品に組み込まれた適合表示無線設備に付されている表示と同一の表示を当該製品に付することができる。
 何人も、第一項(第三十八条の三十一第四項において準用する場合を含む。)、前項、第三十八条の二十六(第三十八条の三十一第六項において準用する場合を含む。)、第三十八条の三十五又は第三十八条の四十四第三項の規定により表示を付する場合を除くほか、国内において無線設備又は無線設備を組み込んだ製品にこれらの表示又はこれらと紛らわしい表示を付してはならない
 第一項(第三十八条の三十一第四項において準用する場合を含む。)、第三十八条の二十六(第三十八条の三十一第六項において準用する場合を含む。)若しくは第三十八条の三十五又は第三十八条の四十四第三項の規定により表示が付されている特定無線設備の変更の工事をした者は、総務省令で定める方法により、その表示(第二項の規定により適合表示無線設備を組み込んだ製品に付された表示を含む。)を除去しなければならない。

では、適合表示無線設備における「表示」とは具体的にどのようなものでしょうか。

技適マークに記号 R 及び技術基準適合証明番号又は工事設計認証番号を付加したもの。

「特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則(昭和五十六年郵政省令第三十七号)」に規定されています。
説明の順番をあえて逆にしていますが、大量生産のコンシューマー向けの無線LAN機器で使われることが多い「認証工事設計」に基づく特定無線設備の表示については下記の通りです。

特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則(昭和五十六年郵政省令第三十七号)
(表示)
第二十条 法第三十八条の二十六の規定により表示を付するときは、次に掲げる方法のいずれかによるものとする。
 様式第七号による表示を認証工事設計に基づく特定無線設備の見やすい箇所(体内に植え込まれた又は一時的に留置された状態で使用される特定無線設備その他の当該表示を付すことが困難又は不合理である特定無線設備にあつては、当該特定無線設備(取扱説明書及び包装又は容器を含む。)の見やすい箇所)に付す方法
 様式第七号による表示を認証工事設計に基づく特定無線設備に電磁的方法により記録し、当該表示を特定の操作によつて当該特定無線設備の映像面に直ちに明瞭な状態で表示することができるようにする方法
 様式第七号による表示を認証工事設計に基づく特定無線設備に電磁的方法により記録し、当該表示を特定の操作によつて当該特定無線設備に接続した製品の映像面に直ちに明瞭な状態で表示することができるようにする方法(ただし、当該特定無線設備の運用を最初に開始する前に、映像面を有する他の製品と有線で接続することにより表示することができる場合に限る。)
 法第三十八条の七第二項の規定により表示を付するときは、製品に組み込まれた適合表示無線設備に付されている表示を目視その他の適切な方法により確認し、次に掲げるいずれかの方法によるものとする。この場合において、新たに付することとなる表示は、容易に識別することができるものであること。
 表示を当該適合表示無線設備を組み込んだ製品の見やすい箇所(当該表示を付すことが困難又は不合理である当該製品にあつては、当該製品(取扱説明書及び包装又は容器を含む。)の見やすい箇所)に付す方法
 表示を当該適合表示無線設備を組み込んだ製品に電磁的方法により記録し、当該表示を特定の操作によつて当該適合表示無線設備を組み込んだ製品の映像面に直ちに明瞭な状態で表示することができるようにする方法
 表示を当該適合表示無線設備を組み込んだ製品に電磁的方法により記録し、当該表示を特定の操作によつて当該適合表示無線設備を組み込んだ製品に接続した製品の映像面に直ちに明瞭な状態で表示することができるようにする方法(ただし、当該適合表示無線設備を組み込んだ製品の運用を最初に開始する前に、映像面を有する他の製品と有線で接続することにより表示することができる場合に限る。)
 第一項第二号若しくは第三号又は前項第二号若しくは第三号に規定する方法により特定無線設備又は適合表示無線設備を組み込んだ製品に表示を付する場合は、電磁的方法によつて表示を付した旨及びこれらの号に掲げる特定の操作による当該表示の表示方法について、これらを記載した書類の当該特定無線設備又は当該製品への添付その他の適切な方法により明らかにするものとする。

製品本体に表示しなくても取扱説明書及び包装又は容器への表示でもよいこと、電磁的方法により製品ディスプレイ(映像面を有する他の製品と有線で接続することによる表示を含む)でもよいこと、が規程されています。
但し、この表示は誰でも行えるものではなく、電波法第三十八条の二十六の認証取扱業者(登録証明機関による工事設計認証を受けた者)が表示する場合や、適合表示無線設備を組み込んだ製品を取り扱うことを業とするものが、製品に組み込まれた適合表示無線設備に付されている表示と同一の表示を当該製品に付する場合に限られます。
つまり、適合表示無線設備でないものを組み込んだ製品について、適合表示無線設備と同一の表示を付することはできません。

実際の表示の様式については、特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則(昭和五十六年郵政省令第三十七号)の様式第7号に規定があります。
具体的には、技適マークに記号 R 及び技術基準適合証明番号又は工事設計認証番号を付加したもの、と定められています。
技術基準適合証明番号又は工事設計認証番号が記載されておらず、単に技適マークのみがあるものは、適合表示無線設備の「表示」の要件を満たしません。

では、どのような場合に「表示」を付することができるのか?

まとめて所謂「技適」と呼ばれる仕組みには、大きく分けて次の4つがあります。
天体観測用の機器では無線LAN(小電力データ通信システム)が主に関係しますので、その部分に絞ってまとめます。

  • 技術基準適合証明(電波法第三十八条の六)

    技術基準適合証明のかんたんなまとめ:証明を受ける全台に審査、1台毎に異なる証明番号、表示は登録証明機関による、表示は義務、組み込み機器における外装への表示は任意(但し表示する場合は同一の表示であること)

    こちらは、あまりコンシューマ向けに販売される量産製品では利用されません。
    無線設備1台1台ごとに対し審査と試験が実施され、1台毎に異なる証明番号が与えられます。
    技術基準適合証明における表示の規定は下記の通りです。

    電波法第三十八条の七
    登録証明機関は、その登録に係る技術基準適合証明をしたときは、総務省令で定めるところにより、その特定無線設備に技術基準適合証明をした旨の表示を付さなければならない
    電波法第三十八条の七の2
    適合表示無線設備を組み込んだ製品を取り扱うことを業とする者は、総務省令で定めるところにより、製品に組み込まれた適合表示無線設備に付されている表示と同一の表示を当該製品に付することができる

  • 工事設計認証(第三十八条の二十四)

    工事設計認証のかんたんなまとめ:工事設計について登録証明機関により認証、認証取扱業者は当該特定無線設備が工事設計認証に合致することについて検査記録の作成保存が必要、この義務を履行したときは総務省令で定める表示を付することができる
    認証取扱業者による表示(技適マークおよびRに認証番号)は義務ではありません。
    ただし、表示されていない機器を使用する場合は先に説明した適合表示無線設備の要件を満たさないため、使用には免許等が必要になります。

    コンシューマー向けに大量生産される機器には主にこちらが利用されます。
    機種(商品の型式・型名)毎に書面及び試験等により認証されます。
    ここで出てくる「特定無線設備」は、電波法第三十八条の二の二に「小規模な無線局に使用するための無線設備であつて総務省令で定めるもの(以下「特定無線設備」という。)」と規定されており、具体的には「特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則(昭和五十六年郵政省令第三十七号)」に定められています。(2.4GHz帯の無線LANについては証明規則第2条第1項第19号、5GHz帯については証明規則第2条第1項第19号の3および証明規則第2条第1項第19号の3の2)

    電波法第三十八条の二十四(特定無線設備の工事設計についての認証)
    第三十八条の二十四 登録証明機関は、特定無線設備を取り扱うことを業とする者から求めがあつた場合には、その特定無線設備を、前章に定める技術基準に適合するものとして、その工事設計(当該工事設計に合致することの確認の方法を含む。)について認証(以下「工事設計認証」という。)する。
     登録証明機関は、その登録に係る工事設計認証の求めがあつた場合には、総務省令で定めるところにより審査を行い、当該求めに係る工事設計が前章に定める技術基準に適合するものであり、かつ、当該工事設計に基づく特定無線設備のいずれもが当該工事設計に合致するものとなることを確保することができると認めるときに限り、工事設計認証を行うものとする。
     第三十八条の六第二項及び第四項、第三十八条の八、第三十八条の九、第三十八条の十二、第三十八条の十三第二項並びに第三十八条の十四の規定は登録証明機関が工事設計認証を行う場合について、第三十八条の十、第三十八条の十五、第三十八条の十六、第三十八条の十七第二項及び第三項並びに第三十八条の十八の規定は登録証明機関が技術基準適合証明の業務及び工事設計認証の業務を行う場合について準用する。この場合において、第三十八条の六第二項第二号中「を受けた」とあるのは「に係る工事設計に基づく」と、同条第四項中「前項」とあるのは「第三十八条の二十九において準用する前項」と、第三十八条の十中「当該業務」とあるのは「これらの業務」と、第三十八条の十三第二項中「第三十八条の六第一項又は第三十八条の八」とあるのは「第三十八条の八又は第三十八条の二十四第二項」と、第三十八条の十四第一項中「第三十八条の六第一項」とあるのは「第三十八条の二十四第二項」と、「特定無線設備」とあるのは「工事設計(当該工事設計に合致することの確認の方法を含む。)」と、同条第二項中「第三十八条の六第一項又は第三十八条の八」とあるのは「第三十八条の八又は第三十八条の二十四第二項」と読み替えるものとする。
    また、これに関する表示の規定は次の通りです。
    電波法第三十八条の二十五(工事設計合致義務等) 登録証明機関による工事設計認証を受けた者(以下「認証取扱業者」という。)は、当該工事設計認証に係る工事設計(以下「認証工事設計」という。)に基づく特定無線設備を取り扱う場合においては、当該特定無線設備を当該認証工事設計に合致するようにしなければならない。
     認証取扱業者は、工事設計認証に係る確認の方法に従い、その取扱いに係る前項の特定無線設備について検査を行い、総務省令で定めるところにより、その検査記録を作成し、これを保存しなければならない。
    電波法第三十八条の二十六(認証工事設計に基づく特定無線設備の表示) 認証取扱業者は、認証工事設計に基づく特定無線設備について、前条第二項の規定による義務を履行したときは、当該特定無線設備に総務省令で定める表示を付することができる

  • 技術基準適合自己確認(第三十八条の三十三)
    こちらは無線LANなどの小電力データ通信システムは対象外です。コードレス電話等が対象ですが、対象機器の規定は「特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則(昭和五十六年郵政省令第三十七号)」の第二条第2項に規定があります。

    2 法第三十八条の三十三第一項の特別特定無線設備は、次のとおりとする。

  • 登録外国適合性評価機関(特定機器に係る適合性評価手続の結果の外国との相互承認の実施に関する法律 所謂MRA法 第三節電波法の特例 第三十三条)
    このMRA法によるものについて、電波法の特例は次の通りです。どのように読み替えるかが規程されています。

    登録外国適合性評価機関による工事設計認証を受けた無線設備を使用する場合でも、免許不要な無線局として開局するための電波法第四条(第二号及び第三号)の適合表示無線設備の条件、即ち無線設備に表示(技適マークにRと認証番号)があることが求められることは変わりません。

    特定機器に係る適合性評価手続の結果の外国との相互承認の実施に関する法律(平成十三年法律第百十一号)
    第三節 電波法の特例
    第三十三条 登録外国適合性評価機関(電波法第三章に定める技術基準に適合している旨の証明を行う者として同法第三十八条の二の二第一項に掲げる事業の区分と同一の区分ごとに登録を受けている者に限る。以下この条において同じ。)が特定無線設備(同項に規定する特定無線設備をいい、当該登録を受けている区分に係るものに限る。次項において同じ。)について技術基準適合証明(同法第三十八条の二の二第一項に規定する技術基準適合証明をいう。以下この項において同じ。)を行った場合には、当該技術基準適合証明を登録証明機関(同法第三十八条の五第一項に規定する登録証明機関をいう。以下この条において同じ。)がした技術基準適合証明と、当該登録外国適合性評価機関による技術基準適合証明を受けた者を登録証明機関による技術基準適合証明を受けた者とそれぞれみなして、同法第三十八条の七第一項、第三十八条の二十第一項、第三十八条の二十一第一項及び第二項、第三十八条の二十二第一項、第三十八条の二十三第一項並びに第三十八条の三十第一項の規定(これらの規定に係る罰則を含む。)を適用する。この場合において、同法第三十八条の七第一項中「登録証明機関」とあるのは「特定機器に係る適合性評価手続の結果の外国との相互承認の実施に関する法律(平成十三年法律第百十一号)第三十三条第一項前段に規定する登録外国適合性評価機関」と、「付さなければならない」とあるのは「付すことができる」とするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。
     登録外国適合性評価機関が特定無線設備の工事設計(当該工事設計に合致することの確認の方法を含む。)について工事設計認証(電波法第三十八条の二十四第一項に規定する工事設計認証をいう。以下この項において同じ。)を行った場合には、当該工事設計認証を登録証明機関がした工事設計認証と、当該登録外国適合性評価機関による工事設計認証を受けた者を登録証明機関による工事設計認証を受けた者とそれぞれみなして、同法第三十八条の二十五から第三十八条の二十七まで、第三十八条の二十八第一項、第三十八条の二十九(同法第三十八条の六第三項の準用に係る部分を除く。)並びに第三十八条の三十第二項及び第三項(第一号を除く。)の規定(これらの規定に係る罰則を含む。)を適用する。この場合において、同法第三十八条の二十八第一項第五号中「登録証明機関」とあるのは、「特定機器に係る適合性評価手続の結果の外国との相互承認の実施に関する法律(平成十三年法律第百十一号)第三十三条第一項前段に規定する登録外国適合性評価機関」とするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。
    第三十四条 前条の規定の適用がある場合における電波法第四条(第二号及び第三号に係る部分に限る。)、第十五条、第二十七条の二、第二十七条の十八第一項、第三十八条の七第三項及び第四項、第三十八条の二十第二項、第三十八条の二十一第三項、第三十八条の二十二第二項、第三十八条の二十三第二項、第三十八条の二十八第二項、第三十八条の三十第四項、第三十八条の四十四第三項、第七章、第九十九条の二並びに第百三条の二第十三項及び第二十項から第四十五項までの規定(これらの規定に係る罰則を含む。)の適用については、同法第四条第二号中「第三十八条の三十一第四項において準用する場合」とあるのは「第三十八条の三十一第四項において準用する場合及び特定機器に係る適合性評価手続の結果の外国との相互承認の実施に関する法律(平成十三年法律第百十一号。以下「相互承認実施法」という。)第三十三条第一項の規定により読み替えて適用される場合」と、「第三十八条の三十一第六項において準用する場合」とあるのは「第三十八条の三十一第六項において準用する場合及び相互承認実施法第三十三条第二項の規定により適用される場合」と、同法第三十八条の七第三項及び第四項並びに第三十八条の四十四第三項中「第三十八条の三十一第四項において準用する場合」とあるのは「第三十八条の三十一第四項において準用する場合及び相互承認実施法第三十三条第一項の規定により読み替えて適用される場合」と、「第三十八条の三十一第六項において準用する場合」とあるのは「第三十八条の三十一第六項において準用する場合及び相互承認実施法第三十三条第二項の規定により適用される場合」と、同法第百三条の二第十三項中「第三十八条の二十六(外国取扱業者に適用される場合を除く。)」とあるのは「第三十八条の二十六(外国取扱業者に適用される場合を除く。)、相互承認実施法第三十三条第二項の規定により適用される第三十八条の二十六(外国取扱業者に適用される場合を除く。)」とするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。

技適は何に対しての認証なのか

技術基準適合証明や工事設計認証は、空中線電力を含めた一式について行われます。つまり、Raspberry Pi Computer Module 4のようにアンテナが外付けである場合、無線LANボードとアンテナのセットで工事設計認証を受けることとなります。
当然、工事設計認証と異なるアンテナを使用している場合は、適合表示無線設備とはなりません。

現在特例申請で技適取得前の機器を実験で利用しているが、後日メーカーが工事設計認証を完了すれば特例申請が不要となるか?

メーカーによる工事設計認証が完了しても、技術基準適合証明や工事設計認証を受ける前の適合表示無線設備の表示がない無線設備については、免許不要の要件を満たしません。
ただし、技術基準適合証明はユーザーでも書類を揃えて費用をかければ個別の無線設備について受けることが可能なため、ユーザが自ら登録証明機関から技術基準適合証明を受け、登録証明機関が当該設備に適合表示無線設備の表示をを付した場合には適合表示無線設備となりますが、現実的にはハードルは高いでしょう。


事例

■MikroTik hAP ac(同一ハードウェアでも、国内正規流通品にのみ適合表示無線設備の表示があるケース)

hAP acは、ラトビアのMikroTikが製造している高機能な無線LANルーターです。
MikroTik Routers and Wireless - Products: hAP ac
この製品は、MikroTikはメーカーとして技術基準適合証明や工事設計認証を取得していません。

これを国内で免許不要で使用できる「適合表示無線設備」として販売するため、日本の輸入販売代理店である株式会社ボイドルーターシステムズが、工事設計認証を取得して販売しています。
hAP acの 第2条第19号に規定する特定無線設備(2.4GHz帯の無線LAN)の工事設計認証に関する詳細情報
上記の認証を以って、株式会社ボイドルーターシステムズおよびその代理店が販売するhAP acに限り、「適合表示無線設備」の表示、すなわち技適マークに R の記号と認証番号が記載されたシールが貼り付けられています。
(記号 T に連なる表示は、電波法ではなく電気通信事業法に基づく技術基準適合認定の番号です。電気通信事業者の設備に接続して良い端末であると技術的に認証された電気通信機器であることを示します。)
hAP acが適合表示無線設備の表示
このラベルを貼り付けることができるのは、法の規定にある登録証明機関による工事設計認証を受けた者(認証取扱業者)、すなわち株式会社ボイドルーターシステムズ(と同社が委託する業者など)です。

一方、hAP acは、海外通販やAmazonの並行輸入品などで、株式会社ボイドルーターシステムズ取り扱いでないもの、すなわち「適合表示無線設備」ではないものも国際的に流通しており、日本でも入手は可能です。
これは全く同一のハードウェアであり、搭載しているOSも同一ですが、適合表示無線設備ではないため、免許なしで国内で運用することは(特例申請する場合を除き)できません。
適合表示無線設備の表示がない海外版のhAP ac(画像は下記サイトからの引用)
上記画像は Mikrotik RouterBoard hAP ac – Unboxing からの引用

国内で工事設計認証を取得するには、時間も費用もかかり、その費用は製品価格に転嫁されます。
海外版の適合表示無線設備がないものを、工事設計認証取得前に安価に輸入販売し、誠実な別の事業者が費用と時間をかけて工事設計認証を取得したことを以って「技適に対応しました!」とアナウンスするような対応は誤りです。
そのようなことがまかり通れば、まともに工事設計認証を取得し、適合表示無線設備の表示を付して海外製の機器を販売してくれる事業者がいなくなってしまいます。

■Raspberry Pi (同一ハードウェアでも、工事設計認証取得前に出荷されたものには適合表示無線設備の表示が付されていないケース)

ZWOのASIAIR PROには、Raspberry Pi 4 Modle B が内蔵されており、無線LAN機能はこのボード単体で完結しています。
私が使用している個体には、ボード上に適合表示無線設備の表示である技適マークと R に工事設計認証番号がプリントされています。
ASIAIR Pro内蔵のRaspberry Pi 4 Modle B上の適合表示無線設備の表示

この工事設計認証は、 令和元年(2019年)9月4日に行われました。
Raspberry Pi 4 Model B の工事設計認証に関する詳細

一方、Raspberry Pi財団が、Raspberry Pi 4 Model Bを海外で販売開始したのは、2019年6月24日です。
PC Watch - USB 3.0初搭載の「Raspberry Pi 4 Model B」が登場
記事中にあるように、Japanese Raspberry Pi Users Groupが工事設計認証取得前のサンプルボードのベンチマークを取得しています。
RP4B-no-giteki1RP4B-no-giteki2
(いずれも画像は、Japanese Raspberry Pi Users Group からの引用 )
上記の通り、工事設計認証前に出荷されている製品であるため、認証取得後のロットと異なりボードの表面・裏面にも適合表示無線設備の表示がありません。
このため、Japanese Raspberry Pi Users Groupではシールドボックス(小型の電波暗室)にて試験を行われています(当時、特例申請の仕組みはありませんでした)。)

例外的に、工事設計認証直後に出荷されるものについては、認証取扱業者にて製品の箱や袋・取り扱い説明書に適合表示無線設備の表示が行われるものがあります。
下記は別製品(Raspberry Pi Zero W)における、工事設計認証直後の適合表示無線設備の表示に関するアナウンスです。
Raspberry Pi Zero Wの発売と工事設計認証の表示について

今後製造するロットにはすべて工事設計認証の番号が印刷されます。ただし一部の流通在庫については財団、もしくは財団が依頼した業者が、ラベリングし出荷することになります。

これは認証取扱業者(およびその委託業者)が付するものについては、法で定められている表示方法ですので、認証取扱業者が認証完了前に製造していたものについても法の義務(電波法第三十八条の二十五の二:工事設計認証に係る確認の方法に従い、その取扱いに係る前項の特定無線設備について検査を行い、総務省令で定めるところにより、その検査記録を作成し、これを保存)を満たしていれば表示を付することができます。
ただし、工事設計認証前に出荷されていたものについては、製品の工事設計認証が完了しても適合表示無線設備にはなりません。
認証取扱業者ではない販売店が、適合表示無線設備の表示「風」なものを後日送付してきても、それは適合表示無線設備の要件を満たしません。

■ASIAIR PRO(無線設備 Raspberry Pi 4 Model Bを組み込んだ製品において、初期ロットの製品には適合表示無線設備でないものが組み込まれているケース)

先の例の通り、ZWOのASIAIR PROには、Raspberry Pi 4 Modle B が内蔵されており、無線LAN機能はこのボード単体で完結しています。
私が使用している個体には、ボード上に適合表示無線設備の表示である技適マークと R に工事設計認証番号がプリントされています。

しかしながら、ZWOが初期に出荷していたASIAIR PROにおいては、内蔵のRaspberry Pi 4 Model Bに適合表示無線設備の表示がありません。
ZWO ASIAIR Pro开箱拆机评测 より引用

ASIAIRPRO-nogiteki

このように、初期ロットのASIAIR PROには、適合表示無線設備でないものが存在し、これを免許や特例申請なしに使用することはできません。
また、工事設計認証を取得する前に出荷された無線機器で適合表示無線設備の表示がないものを組み込んでいる製品については、組み込み製品(この場合はASIAIR PRO)のメーカー(ZWO)やその販売業者が、適合表示無線設備を組み込んだ製品を取り扱うことを業とする者として外装等に適合表示無線設備の表示を付すこともできません。
法の規定により、表示を付すことができるのは適合表示無線設備に付されている表示と同一の表示に限られるからです。
Raspberry Pi 4 Model Bの認証取扱業者(登録証明機関による工事設計認証を受けた者)ではないZWOやZWO製品の販売店が、適合表示無線設備の表示に求められる「認証取扱業者は、工事設計認証に係る確認の方法に従い、その取扱いに係る前項の特定無線設備について検査を行い、総務省令で定めるところにより、その検査記録を作成し、これを保存」しているかどうか、自ら表示がないRaspberry Pi 4 Model Bについて確認・判断することもできません。

■Raspberry Pi Compute Module 4(工事設計認証取得前)

ASIAIR Plusに組み込まれているものとは型番が異なるものですが、下記は2022年4月現在、流通しているRaspberry Pi Compute Module 4のパッケージおよび基盤の例です。
取り扱い説明書のようなものは同梱されていません。
工事設計認証取得前に個人で米国SEEDSTUDIOより輸入したもので、適合表示はありません。

CM4102032

工事設計認証取得後、適合表示を付するかどうかはRaspberry Pi LTDの判断によりますが、適合表示が付されていないと電波法第四条の規定に基づいてユーザーが総務大臣の免許不要で運用できる要件を満たさないため、取得した以上は適合表示を付して販売されるものと予想されます。
適合表示は製品本体に表示しなくても取扱説明書及び包装又は容器への表示でもよいことは先に説明したとおりですが、総務大臣の免許不要で運用できる組込製品としてエンドユーザーが利用するためには、適合表示が付されていることが条件となっているため、ASIAIR Plusについては下記のような対応がなされることを期待しています。

Raspberry Pi LTDが、Compute Module 4の基板上に適合表示を印字したものを生産し
ZWOは、上記CM4を内蔵するASIAIR Plusにおいて、ユーザーが区別できるようにASIAIR Plusの外装にCM4と同じ適合表示を付する(これは義務ではありませんが、表示がないとエンドユーザーは製品を開けて基盤を確認するより他にありません)

このような対応がなされると、Raspberry Pi Compute Module 4の工事設計取得前に出荷されたASIAIR Plusを、意図せずユーザーが中古市場などで入手してしまうこともなくなります。


参考事例(適合表示無線設備の要件を満たしていなかったため、後日認証取扱業者による回収等の対応があった機器など)

Appleが、AirPods (第 1 世代)に表示させていた技適マークの大きさが様式を満たしていなかったため、技適マークが記載された冊子を更新して別送

関東総合通信局 総合通信相談所 に質問した方の投稿

技適マークの直径が1ミリメートル(3ミリメートル)以下の時は、電波法で定める、技術基準を満たしてないので違法になるのでしょうか?

【回答】
  工事設計認証を取得して、無線設備に技適マークを表示する場合を考えますと、電波法第38条の26に、認証取扱業者(工事設計認証を受けた者)は、認証工事設計に基づく無線設備について所定の義務を履行したときは、総務省令で定める表示(技適マーク)を付することができると規定されています。
  特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則(省令)第36条には、その表示方法としてマークの大きさ等が規定されています。
これは、法令上、適法な表示がなされることによって「適合表示無線設備」として取り扱われるものですので、ご質問の場合のように、法令の規定のとおり表示されていない場合には、「適合表示無線設備」とはなりません。

内田洋行が、無線対応プレゼンテーション機器「wivia 4」において製造委託先で異なる表示のラベルを貼り付け

無線対応プレゼンテーション機器「wivia 4」(ワイビア4)において、社内検査により、電波法および電気通信事業法で規定された認証表示に誤りがあることが判明いたしました。
本件は、製造委託先で異なる表示のラベルが貼付されたことに起因する表示上の誤りです。製品自体は、法令の技術基準に適合し、認証を取得しており、機能・性能・安全性などには問題ありません。しかし、対象製品をお客様にお使いいただくには、法令に則った正しい表示を行う必要がありますので、弊社にてお客様の対象製品を正しい表示に修正させていただきます。

UPQ Inc.が、初期出荷分の 「UPQ Phone A01」において技術基準適合認定の表記に誤りがあり回収

株式会社UPQ(アップ・キュー)のAndroidスマートフォン「UPQ Phone A01」初期出荷分につきまして、技術基準適合認定の表記に誤りがあることが判明いたしました。
該当の製品に関する技術基準適合認定は取得しておりますが、本体に添付したラベルの記載に誤記がございました。法令上、認証を取得した商品は正しい表記を行なわなければ適合表示無線設備とはならず、電波法上も使用できない製品となりますため、該当製品について回収の上、正しい表記に修正してお送りいたします。
お客さまにはご迷惑をおかけしますが、下記の方法にてお手元の製品をご確認いただき、該当の製品については返送いただくようお願いいたします。